140816無料配布 東西
大切なことだから2回言いました。
今日の授業で武ちゃんがそう言ってたから。
「旭さん、好きです」
俺もマネをして。
「旭さん、好きです」
大好きな人に伝える恋心。
でも、俺の好きな人は「おー」とか「ありがとう」とか。
そんな簡単な返事しかしてくれず。
「・・・旭さんっ!」
別に「俺も好き」なんて、望んでたワケじゃねぇけど。
「えっ、どうしたの、西谷?」
せめて「俺も」くらいは言ってくれてもいいんじゃねぇかって思ってしまったから。
自主練で2人しかいない体育館で後ろからTシャツの裾を掴んで呼び止めた…ところまでは想像通りだったのに。
「壁打ちのフォーム、見ればいい?」
俺が好きと言ったことを気にも留めてないような。
「それとも、トス練? つきあう?」
まるで聞こえてもいなかったような。
「あぁ、今日はもう終わりにするとか?」
どこまでもバレー一色な問いかけの羅列に。
「俺はバレーのことで旭さんに質問なんてねーっす!」
ガラスが砕ける音が聞こえたような気はしたけど。
「西谷ぁ・・・」
どんなに情けない声を出されても、困った顔をされても。
今日は・・・俺が大切なことを伝えたいと思った今日は、簡単には許してあげることはできないなら。
グイッと見上げた強い視線で叩きつけるのは。
「旭さんは、俺とバレーとどっちが大切なんですか!」
究極と先輩たちが話していた質問。
きっと旭さんはどっちも選べないって言うと思ったし。俺もそうであることを心のどこかで願っていた。
バレーに勝てないのはちょっとシャクだけど、それでも、それが旭さんらしいのかなって。
そう勝手に思っていたのに。
「…西谷、かな」
「・・・え?」
まさかの答えは、本当に思ってもなかった答えで。
どうして…?と、声に出す前に気づいてくれた旭さんが優しく俺を抱きしめてくれるから。
「だって俺は西谷のエースだから・・・」
そっと耳元で囁かれた言葉に。
俺は、別に大切なことは1回だけでも十分伝わるんじゃねーかって。
嬉しさの分だけ目一杯背伸びをして。
大きな背中にしっかりと腕を回した。
20140816