月曜日のウカタケとタキシマ
「嶋田さんは烏養くんのことが好きだったんですか?」
くらりと眩暈がした。もしかして地球が回ったのかもしれない。
「あのさ・・・」
「だとしたら、僕は」
早合点にもほどがある。
何も答えていないというのに、そうだと決めつけられては堪らない。
「あのさ、ちょっと待ってよ、センセイ」
ぎゅっと眉根を寄せていかにも痛ましげな顔をした武田を強く遮って嶋田は大きなため息をついた。
「ほんと、マジでやめてほしい。俺、その誤解二度目なんだけど、とにかくもううんざりだから」
何が悲しくて男を相手に片思いをしなければならないのか。
不毛だ。途方もなく。
そう言って何度も何度も説得を試みた一度目の相手は、なかなか納得してくれず。
一体どうやったらこの誤解が解けるのかと嶋田に要らぬ頭痛を与えてくれたものだった。
「そうなんですか? じゃあ・・・気にしなくてもいいですか?」
「え、何が?」
「滝ノ上さんが、アイツは繋心のことが好きだったんだ。だからちょっとは気を使ってやってくれと仰るもので」
なので確認しておこうと思ったんです、と武田に言われて嶋田は頭を打ち付けたい衝動に駆られた。
(あーいーつーはー・・・・・・・・・)
納得したんじゃなかったのか。
誤解は解けたんじゃなかったのか。
それとも何か、あれはいまだに勘違いしたままなのか。
自分と付き合うことになったというのに、それでも、まだ。
(そりゃ確かに、説得するのに男同士なんてないだろ、とか言ったし。今更幼馴染相手にどうこうする気になんてなれるわけもないって言ったし)
可能な限りの否定を滝ノ上に差し出した。
だから、そんな自分がその滝ノ上とオツキアイなんぞする羽目に陥ってしまってはそれまで用いた理由のあれこれの信憑性がなくなりもするだろう。
誤魔化しや嘘など口にしたつもりはないが、そう受け取られても仕方がない。
でも、だからって。
「・・・まあとにかく、ないのでダイジョウブでーす・・・」
なんだかもう脱力して、嶋田は乾いた笑いを漏らした。
と、何故だか武田が笑う。
「うん?」
「いえ・・・その『大丈夫です』の言い方が、烏養くんと似ていたので・・・。友達っでも長く一緒だと似てくるものなんだなと」
笑ってすみません、と言った武田はすっかりと落ち着いた表情で嘘をついたり誤魔化したりしているようには見えなかった。
もうすっかりと嶋田の言葉を信用している様子なのが拍子抜けだ。
などと思ってしまうほど、滝ノ上はしつこかった。
「これでも教師なので。ちょっとは人の顔色ぐらい、読めますよ」
そのままずばりと指摘されてうわぁ、丸わかりかよ、と恥ずかしくなる。
これは侮れない相手だなぁと思いつつ、友人のこれからのことを予想してそっとエールを送った。
(カカァ天下のが家庭円満って言うしな・・・)
だとしたら、自分たちはどうだろうか。
などと余計なことまで考えかけて、なんだよ家庭って、と自分で考えたことにものすごく恥ずかしくなった。
「まあ、これからもどうぞよろしくお願いします」
あわあわと思考を打ち消して落ち着かなげに周囲を見回す嶋田に、武田はきれいに微笑んでみせて。
「・・・あー・・・そ、ですね」
なんだこれ、何の挨拶だよ。
つーかとんだ羞恥プレイ!
どれもこれも滝ノ上が悪い。
・・・そうだ、きっとそうに違いない。
帰ったら呼び出して絞めよう。そうしよう。
ひっそりとそう決意して、嶋田はそれではと悠然と去っていく武田の背中を見送った。
20150119