目と目が合う。

それは偶然であれ、必然であれ。
合えば、嬉しいと感じる。
その心が重要なのであって、それに従順であるならば。
僕は今、彼の人に恋をしています。



「せんせぇー」

聞こえるのは、彼が僕だけを呼ぶ声。
学校内における多くの人々にとって「先生」とは多数の人を言い示す単語であり、個別の判断は時に難しくもある。
だがしかし、彼にとっての「先生」とは。

「たぁーけだせんせーぇ!」

他の誰でもなく、僕だけを示す単語であり。

「烏養君?」

時々・・・本当に時々、稀にですが。

「どうしたんですか? わざわざ走ってくるなんて」
「はぁ、イヤ、聞こえなかったのかと思って慌てて…」

ワザと聞こえないフリをしたりする僕を。

「あぁ、すみません。考え事をしていたもので…」

もし知られてしまったら、彼はどんな顔をするのか。

「あー、もー。昨日もヤメテって言ったっショ?」

それとも、本当はとっくに知られてしまっているのか。

「え?」

何も聞かない僕には。

「ソレ! その、すみませんって言うクセ!」

誰も真実などは教えてはくれませんが。

「ああ…すみま……あ」

ただ、これだけは嘘でも偽りでもなく言えることは。

「あのさぁ、武田先生さぁ・・・ちょ、耳、貸してみ?」

僕は烏養君が大好きで。

「今度すみませんって言ったら、チューすっからな?」

烏養君に僕は憎からず思われているということ。
本当は、好かれていると…胸を張って言いたいところですが。

「!!! う・ううか、うかっ…!」

告白をされた身とはいえ、未だに烏養君が僕のどこを好きになってくれたのか…説明を受けても微妙に理解不可能のため。

「あっはっは! 見事に真ッ赤ッ赤だなぁ! センセッ!」

今のところは、憎からず程度でいいのかな、と。

「こんな廊下の真ん中で! もし、誰かに見られたらっ!?」
「あ? ンなの、見せつけてやればいいんじゃねーの?」

でも、こんなことを言われてしまえば好かれているではなく、からかわれていると受け取られてもしょうがないというか。

「烏養君ッ!」
「嘘! けど、まぁ見られねぇようにならいっかなーって…」

どこまでが本気なのか、わからないところも彼らしくあり。
ただ、そんな烏養君がくれた幸せが運命でも過ちだとしても。

「別に…してはダメだと言ったつもりはないんですけどね」
「・・・へっ?」

初めて自分から強く求めたいと思う存在と出会えたことは、僕の人生の中で何よりも大切なことだと思うので。

「だから正々堂々と…わからないようにしてくださいね?」

せめてもの強がりで、様々な面で彼の「先生」でありたいと。
年上のプライドとワガママ全開で、力の限り軽快に意地悪く。

「烏養君ならできると、信じてますから」

僕は愛しい人に、ここぞとばかりに笑ってみせたのでした。



20140302