140302無料配布2
目と目が合う。
それは偶然であれ、必然であれ。
合えば、嬉しいと感じる。
その心が重要なのであって、それに従順であるならば。
僕は今、彼の人に恋をしています。
「せんせぇー」
聞こえるのは、彼が僕だけを呼ぶ声。
学校内における多くの人々にとって「先生」とは多数の人を言い示す単語であり、個別の判断は時に難しくもある。
だがしかし、彼にとっての「先生」とは。
「たぁーけだせんせーぇ!」
他の誰でもなく、僕だけを示す単語であり。
「烏養君?」
時々・・・本当に時々、稀にですが。
「どうしたんですか? わざわざ走ってくるなんて」
「はぁ、イヤ、聞こえなかったのかと思って慌てて…」
ワザと聞こえないフリをしたりする僕を。
「あぁ、すみません。考え事をしていたもので…」
もし知られてしまったら、彼はどんな顔をするのか。
「あー、もー。昨日もヤメテって言ったっショ?」
それとも、本当はとっくに知られてしまっているのか。
「え?」
何も聞かない僕には。
「ソレ! その、すみませんって言うクセ!」
誰も真実などは教えてはくれませんが。
「ああ…すみま……あ」
ただ、これだけは嘘でも偽りでもなく言えることは。
「あのさぁ、武田先生さぁ・・・ちょ、耳、貸してみ?」
僕は烏養君が大好きで。
「今度すみませんって言ったら、チューすっからな?」
烏養君に僕は憎からず思われているということ。
本当は、好かれていると…胸を張って言いたいところですが。
「!!! う・ううか、うかっ…!」
告白をされた身とはいえ、未だに烏養君が僕のどこを好きになってくれたのか…説明を受けても微妙に理解不可能のため。
「あっはっは! 見事に真ッ赤ッ赤だなぁ! センセッ!」
今のところは、憎からず程度でいいのかな、と。
「こんな廊下の真ん中で! もし、誰かに見られたらっ!?」
「あ? ンなの、見せつけてやればいいんじゃねーの?」
でも、こんなことを言われてしまえば好かれているではなく、からかわれていると受け取られてもしょうがないというか。
「烏養君ッ!」
「嘘! けど、まぁ見られねぇようにならいっかなーって…」
どこまでが本気なのか、わからないところも彼らしくあり。
ただ、そんな烏養君がくれた幸せが運命でも過ちだとしても。
「別に…してはダメだと言ったつもりはないんですけどね」
「・・・へっ?」
初めて自分から強く求めたいと思う存在と出会えたことは、僕の人生の中で何よりも大切なことだと思うので。
「だから正々堂々と…わからないようにしてくださいね?」
せめてもの強がりで、様々な面で彼の「先生」でありたいと。
年上のプライドとワガママ全開で、力の限り軽快に意地悪く。
「烏養君ならできると、信じてますから」
僕は愛しい人に、ここぞとばかりに笑ってみせたのでした。
20140302